夫婦ですが何か?Ⅱ
ああ、もうさ、
ずっとずっと堪えて我慢してたけどさ。
「・・・・そっち行きたい」
『はっ?』
「ってか、行く!行って抱きしめる!」
『何、私を女子社員の嫉妬の渦に沈めようとしてるんですか?妊婦ですよ?妊娠初期のデリケート時期ですよ?そんな愛妻を窮地に追いやりたいと、そういう解釈すればいいですか?』
「っ、だって、だって昨夜から千麻ちゃん不足でおかしくなりそうなんだよ!!」
『紅さんと楽し気な入浴タイムしてたのに?』
「っ、だからあれは紅ちゃんが勝手に!!」
『それに、さっきから背後で恭司が笑顔の睨みで催促しているように見受けられますが?』
言われて彼女が目を細めて見つめる対象を振り返って。
確かに笑顔でこれ見よがしに腕時計を確認し、あからさまな外出の催促をしている。
「気にしないで、あれは俺たちにしか見えない怨霊だから」
『ダーリン・・・、』
「っ・・・はい、」
『・・・出直し。・・・真っ当に業務こなして懐潤してからお帰りください』
「・・・・その響きだけはいつだって俺を苦しめるんだね、」
ああ、予想はしていた彼女の常套句。
俺をいとも簡単に封じる響きでもあって、何故かその響きに効力があるように逆らう事が不可能な結婚当初から今この瞬間。
言われてしまってはもう無理だと項垂れて、深い深い溜め息で何とも言えない不完全燃焼を示して見せる。
そんな俺に楽し気に笑った彼女が、
『そんなダーリンに朗報です』
「んー・・・?」
『『おかえりダーリン、チュッ』が再入荷済みですよ』
「・・・マジ?」
『あなたの頑張りによっては・・・予約して取り置いておきますが?』
「っ・・・てかっ、予約も取り置きも関係なく!千麻ちゃんは全部俺のだし!!」
『・・・・・・仕事して稼がない夫は愛情薄れます』
「っーーーーー、いってきます」
『いってらっしゃい』
クスリと響いた彼女の声が、嫌味もなく印象に残る。
『いってらっしゃい』の後に静かに優しく繋がりの切れた電波。
それでも名残惜しく視線は絡ませて、不満を示すように眉根を寄せてからすぐに小さく笑って片手をあげ背中を向ける。
そんな俺に同じように片手をあげて。
ああ、この後、父さんのところに行くのかな。
どんな反応をされるだろう。
そんな想像を巡らせて、クスリと笑うと会社を出た。