夫婦ですが何か?Ⅱ
都会のマンション付き合いなんてこんなものだろう。
下手したら隣人の顔も知らずに過ごしている事だってある。
こうして挨拶を交わすことすら珍しい事で、社交辞令のように言葉を交わすとすぐに新聞に視線を戻した。
それが普段。
なのに、今日ばかりは・・・、
「・・・・・誰か入るらしいですよ」
不意に響いた声は先ほども聞いた声、だから驚いたのは挨拶以外の言葉であったから。
再度視線を同じ人物に戻すと、彼はスッとこちらを指さし言葉の意味を示してくる。
私を指さしたんじゃない。
私の後ろを、が正解。
示されたそれを確認するように振り返って『ああ、』と理解して頷いた。
我が家の逆隣り。
この階に部屋は4つ。
造りとして我が家である部屋が一番間取り的に広い一室で、あとの3つはそれよりは小さい。
そして現在埋まっていたのはウチと、今話している彼と、あまり接点のない女の人。
残る一室がしばらく空室であったのにどうやらそこに誰かが住みつく事になったらしい。
「こんな時期に珍しいですね・・・・」
ぽつりと零した言葉。
時期的に転勤の類ではなさそうなのに、第一どんな人が住み着くのやら。
返答を求めての言葉ではなくただ疑問を口にしただけだったのに、
「・・・・不祥事・・なんて・ね」
返された答えにさすがに驚いて振り返れば、彼はすでに興味なさげに部屋に入り込んだところで。
パタリと扉の閉まる音だけ残して、再び自分だけの気配がそこに存在する。
ぼんやりと彼の言った言葉を反芻して、そして空室の部屋の扉を見つめて思ってしまう。
あり得なくない。と。
「不祥事・・・ね」
なるべく当たってほしくない理由だと溜め息をつきながら新聞に視線を落とし、そのままくるりと扉に向かってようやくその身を中に投じると。
背後で玄関扉が閉まるのと、寝室の扉が勢いよく開いたのがほぼ同時。
フッと何気なく新聞から視線を上げればすぐにポカンと口が開いてしまった。
「・・・・っ・・間に合わなかったか・・」
「はっ?」
意味不明。
何故か私を見た瞬間に落胆した彼の姿と声音に疑問を返して、同時にさらなる疑問で彼の全体像の確認。
そうしていれば深く息を吐いた彼がどこか不愉快な眼差しを私に向けると、それを示したような歩き方で私に迫る。