魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 夢の中で何度も呼んでいたせいか、どうしてもユウヒくんって言いそうになる。

「どうかな。俺、夢の中でセ……津久野さんに命を助けてもらったんだよ。津久野さんはどんな夢を見たの?」
「わ、私はユ……柊くんを助ける夢を見たよ」
「本当に?」
「うん。信じられないと思うけど、私も信じられないんだけど、まるでゲームの世界に入ったみたいな感じで。私、魔法使いになってね、剣士の柊くんと一緒に王様を救おうとしてたんだ。王城で悪い魔法使いと対決したとき、柊くんが私をかばって大怪我をして、私、身代わりになる呪文をかけたの」

 子どもっぽい夢物語だと呆れられるだろうか。それでも私は夢中で語り続ける。

「アナバイオーシスって自分の命を相手にあげる呪文を使ったの。でもね、その後、どうなったかはよくわからないんだ。王国軍の指揮官がきっと王様を救出してくれたとは思うんだけど」
「世里」

 彼が突然私を名前で呼んでこっちを見た。びっくりするほど真剣な眼差しで。

 夢の中でも彼はこんなふうに何度も呼んでくれていた。夢の中の出来事のはずなのに、なんだか胸に熱いものが込み上げてくる。

「俺の命を助けてくれる少し前、俺が王城に侵入しようとしたときに約束したこと、覚えてる?」

 それって、まさか。

「えっと……」

 私は小さく喉を鳴らした。
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