睡恋─彩國演武─
そして由良に向き直ると、少し苦笑いをした。
「呉羽の傷、治して貰えるかな──?」
「ええ。お待ちください、呉羽様」
由良は先程と同じように、呉羽の傷へ手をかざした。
「……傷が……」
呉羽の傷は、人よりも治癒が早いものの、完治には時間がかかる。
「彼は由良。由良には治癒能力があるんだ。私もさっき治してもらったところ」
「では千霧様もお怪我を……!」
「呉羽ほどじゃない。気に病まないで。それより、今は自分の心配をして」
無理に体を起こそうとする呉羽をなだめる。
彼は忠誠心が強すぎるあまりに細かいところまで気に病んでしまうのだ。
「──終わりました。そんなに深い傷じゃなくて良かったです」
由良は額の汗を拭った。
「由良……。この能力は一体どこで……?」
「わかりません。気付いたら……というのが正直なところですけど、祖父が亡くなった後からだと──」
「祖父?」
ぴくり、と呉羽の眉が動いた。
「ええ。名を玄静(げんせい)と言います。博識で、薬師をしておりました」
「玄……静……」
自らの口でその名前を再度繰り返し、目を大きく開く。