睡恋─彩國演武─





「ただいま戻りました」


朱陽の中心にある王宮。

扉を開ければ、贅を凝らした造りの部屋が広がり、同時に大勢の召し使いの姿が見える。

第二皇子の帰還に気付くと、仕事をしていた召し使い達も手を止め、一斉に頭を下げた。

義務づけられたその姿は、ひどく滑稽に見える。


「千霧、また山間の集落に行ってたなんて、父上に言ったら叱られるよ?ただでさえ君が外出すると勘にさわるんだから──」

「兄様……」

召し使い達の間から出てきたのは、第一皇子の『紫蓮(しれん)』。

千霧の二歳違いの兄で、長い髪を常に後ろで束ねている姿は気品に溢れている。

彼は、生まれた時から次期皇になることが決まっている。

その為、第二皇子とはいっても、実際のところ名前だけで、千霧の政治的権限は皆無に等しいのだ。


「……では、次から気を付けます」


「うん、それがいい。父上も煩いからね。あぁ、それと……」

「なにか?」

「急な会議が入ったんだ。これから父上と青城まで行かなければならないのだけど……」

「承知しました。では、その間のことはお任せください」

「ありがとう。君がいて助かるよ」

紫蓮は柔らかく微笑んだ。

穏やかで優しく、聡明な兄。

その姿は、いつも千霧の憧れだった。

ただ、それだけ自分との間に差を感じてしまうのは、千霧にとって辛く、淋しいことでもあった。

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