睡恋─彩國演武─
「お二人の仰る玄武って、北を護る聖獣ですよね?……俺、人間ですよ。勿論、祖父も──」
言い切ろうとする由良に、呉羽がすかさず、笑顔の否定を入れる。
「いいえ」
「……でもっ」
「玄静殿は玄武です。……貴方も。玄静殿はそれを伝えられずに亡くなられたのでしょう。だから自覚がないのは仕方のないこと」
「──でも」
俯いてしまう由良を見て、千霧はとっさに二人の間に入る。
「……呉羽、由良が混乱している。あまり──」
どう伝えたらいいのか。
千霧も最初は由良のように、全てを受け止めることは出来なかった。
龍だというのが怖くて。
「由良は私と同じなんだ」
呉羽のように、最初から己の使命を知って生まれたわけではない。
だから普通の人として送った日々が嘘だなんて、思いたくないんだ。
「待ってあげてくれないか──?」
由良が目を丸くして千霧を見上げる。
自分が庇われているのが意外だったのだろう。
呉羽は諦めたように、髪を掻き上げて息をついた。