睡恋─彩國演武─
「……千霧様が仰るならば」
まだまだ呉羽にも言いたいことはあるのだろう。
でも、これ以上由良を不安にさせないために、今はまだ最後まで語らせられない。
「──由良」
「すみません。なんだか俺、自分のことがよく分からなくて、急に、不安になって」
「そうだね。……不安、だね。でも由良が由良であることに変わりはないのだから。受け入れることで失うものは多いかもしれないけれど……」
失うもの。
由良にとって、それは空良だったのかもしれない。
「落ち着いたら、ゆっくり受け止めていけばいい」
急ぐ必要は、無いのだから。
千霧は由良の肩に手を置いて、彼が落ち着くのを待った。
それから静寂の中、時間は過ぎ、いくらかすると一つの足音が近付いて来る。
ぴくり、と由良の背が跳ねた。
刹那、部屋の扉が外れんばかりに勢いよく叩かれた。
「由良ァ!王が贄との面会を望んでおられる!直ぐに広間に連れてきな!持ってる刀は取り上げておき!いいね!?」
野太い女の声で、怒声ともとれるような大声だ。
「……かしこまりました。其のように致します」
強張った声で由良が答えると、声の主は大きな足音を響かせて部屋の前から去って行った。