睡恋─彩國演武─

「由良とは随分と仲が良いじゃないか」


悪寒が走り、抵抗を止める。


「まぁ、見れば見るほど美しいこと」


春牧が下卑た笑みを浮かべながら千霧を締め付ける。


「ぐ……」


体が酸素を欲して、無意識に手を伸ばした。


「あやつは何度も同じ間違いを繰り返す。弟を助けられなかった憐れな兄は、己を責め続けてるってわけだ」


「──大切な人を失って、平気でいられる者などいない」


「怖い怖い。……空良は生意気な奴だったんだ。だから私が王に贄として推したのさ!」


「なん、だと──…?」


この女のせいで、空良が生け贄にされた?

人の命を、心を、なんだと思っているんだ──!


怒りと、悲しみ、そして憎悪が溢れてくる。

人をここまで憎んだことが、かつてあっただろうか。


宙をさ迷っていた腕が、袖口から素早く暗器を取り出し、春牧の腕に向けて振りおろした。



「あぁあぁああぁぁあ!!!」



濁った声と共に、切り口から小さく飛沫が飛び出した。

その隙に力の緩んだ腕の枷から脱し、距離をとる。


「由良の哀しみがお前にわかるか?由良の痛みが、お前に──…」


< 125 / 332 >

この作品をシェア

pagetop