睡恋─彩國演武─
春牧の腕から滴り落ちた血が、泉の水を赤く染めた。
滲んでは、溶ける。
千霧は冷ややかにそれを見詰めていたが、やがて顔を上げて笑んだ。
「……その痛みを覚えておくと良い」
血を含んだ紅の琥珀が、残忍に歪んでいる。
「おのれぇえ!泉を血で汚すとは……脩蛇様の水を汚した罪は重いぞ。お前は必ず殺される!!」
憤怒の表情で、春牧が腕を押さえながら叫ぶ。
「……殺せるものなら」
千霧は乱れた衣服を整えると、春牧など気にせず部屋から出た。
そこで衛兵が異変に気付いたのだが。
「贄を早く神殿へ連れていけ!」
春牧が喚くのが聞こえたが、千霧は眉ひとつ動かさず、冷静だった。
*
神殿までは目隠しをされて連れられ、随分と遠くまで来た。
感覚だけで言えば、土や木の匂いがするから、森の中だろう。
灰色の白樹に、まだ緑が残っていたとは。
「──着いたぞ」
目隠しを取られ、初めて景色を確認する。
神殿…だが、妖気がこびりついている。
息苦しいのだ。