睡恋─彩國演武─
由良は受け取ると、千霧を神殿の中へ招き入れた。
床中、一面に張られた水に足を濡らしながら、奥へと進んでいく。
「どうして水なんか……」
「蛇が水を好むからですよ。それより、転ばないように気を付けて下さいね」
足場の悪い場所を、由良は慣れたように進んでいく。
「随分と慣れているね。……前にも此処へ来たことがあるの?」
「一度だけ。もう随分と昔ですけど」
懐かしそうに、由良が微笑を浮かべる。
仮面で表情は読めないが。
話しているうちに、最深部まで到着したようだった。
禍々しい空気が、今までとは違う。
濃密に、そしてさらに重く、息もさせないほどだ。
そこは静かで、祭壇がぽつりと水面に浮かび上がり、更に異様な雰囲気を醸し出していた。
静寂の中に、水音だけが木霊している。
「もうすぐ、終わるよ」
由良がうわ言のように呟いた瞬間、自分達のものではない足音が、遠くから聞こえてきた。