睡恋─彩國演武─

「……千霧様、俺はここで。また時間が来たら戻ります」


由良はそう言い残すと、そのまま千霧を残して神殿の奥へと姿を消してしまった。


「……千霧様!」



間もなく、懐かしい声が聞こえてくる。


「え?」


声の方を見れば、呉羽の姿。

もう随分と離れていたような気さえする。


「無事で良かった……!」


呉羽の側に駆け寄ると、彼の手首に食い込む枷に気付く。


「手枷……。呪詛が、掛かってるんだね。力を封じる強い呪詛……」


「はは……情けないことに、これのせいで元の姿に戻れないんですよね……」


「陰の気が流れてる。……陽の力でどうにかならないかな……」


千霧は目を瞑り、手枷に力を注いだ。

だが、手枷はびくともしない。


「……駄目だ。外れない。月魂の力があれば良いのだけど」


「月魂は、今どこに?」


「さっき由良に預けたんだ。彼に預けるのが一番安全だから」


由良の名前を出すと、呉羽の顔つきが変わる。


「由良に……ですか?」


「ああ、呉羽が来る少し前に……」


「そうですか……じゃあ……」


呉羽が言いかけた瞬間、神殿の中に鐘の音が響き、仮面を被った神官と思わしき人物達が列を成した。


「いよいよか……」


その中から、白王、春牧、由良が現れる。

由良の仮面の表情は、心なしか哀しげに見えた。


「此れより、神聖なる贄の儀を執り行う」


王が宣言すると同時に、楽が奏でられる。


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