睡恋─彩國演武─
千霧の前で、白髪の少年が相手の剣を受け止めていた。
手にしているのは、月魂。
少年はそのまま押し返すと、隙を見てみぞおちを蹴り上げた。
神官はその場から少し吹き飛び、床に倒れると動かなくなる。
彼は何も言わずに呉羽に近寄ると、月魂を振りおろした。
「これで借りは無しです」
呉羽の力を奪っていた忌々しい手枷が崩れ落ちる。
「そうですね。有り難う」
呉羽は背中から大剣を引き抜き、構える。
「……許せませんね、脩蛇」
「ええ」
頷くと少年は振り返り、千霧に手を差し伸べた。
「僕は玄武の空良。由良の弟です」
「玄……武……?でも空良は死んだって……!」
空良は苦笑すると、千霧の手に月魂を握らせる。
『千霧、奴は死人だ……!我を無断で扱いおった!』
月読の聲が響く。
「確かに死にました。今の僕は……異形ですよ。脩蛇に取り込まれた、ね」
空良がそう言うと同時に、神殿の床に流れる水が無数の柱となった。
「由良ァアァア!其奴らを殺せぇ!!」
春牧の叫びが聞こえ、水柱が鋭く変形したかと思うと空良の身体を貫いた。
「………」
貫いた、のに。
空良は薄笑いを浮かべたまま、人差し指を振った。
「だから、効かないよ。兄さんの力は、僕の力と同じだし──もう死んでるんだから」
そのまま指先を春牧に向けると、空良に突き刺さっていた水柱が抜け、彼女を目掛けた。
……が、春牧の周りには薄い水の壁があり、空良の攻撃が跳ね返される。