睡恋─彩國演武─
空良の舌打ちが、千霧の耳まで届く。
「あれが……由良の力なのか?どうして空良を攻撃して──…」
「彼は脩蛇の術で操られています。彼の精神は眠り、空良が目の前に居ることにさえ気付いていません」
「脩蛇を倒せば、由良の術は解けるのか?」
「──恐らくは」
「だったら話は早い」
千霧は剣を呉羽に渡すと、祭壇へと歩み出た。
突然のことに、春牧は口をあんぐりと開けたまま、目前の光景を見つめている。
千霧は目を閉じると、凛とした声を響かせた。
「──力が欲しいか、脩蛇。ならばこの身を喰らえ」
空良が目を丸くして、はっきりと動揺する。
「ち……ちょっと待って下さい!!何を……!」
思わず祭壇へと向かおうとする空良を、呉羽が片手で制す。
「大丈夫ですよ」
「だけど……ッ!」
二人がそうしているうちに、千霧が大きく息を吐く。
そして、一際大きく叫んだ。
「我が名は千霧。朱陽が皇子であり、龍の血を受け継ぎし者!!」
神殿に木霊する声と共に、室内が大きく揺れ始める。
「朱陽の皇子様……だって……?」
呆けていた春牧だが、千霧の背後の影を見ると、一瞬にして青ざめた。