睡恋─彩國演武─

「脩蛇……様……!!」


水面がゆらりと揺らめき、大きな水音と共にそれが姿を表す。

ぬらりと光る肢体、太く、長い身体をくねらせ、眼は血のように紅い。

蛇の姿をした、邪神。

それは長い下を動かした。


《我ハコノ時ヲ待ッテイタ……何ヲ喰ラッテモ満タサレナカッタガ……オ前ハ力ヲ持ッテイルナ……》


「持っているさ。この身体に流れる龍の血が、それを証明している」


《龍──ソノ力、我ニ捧ゲヨ……!!》


脩蛇の長い胴体に、千霧の小さな身体が絡めとられた。

千霧は抵抗することもなく、身を任せている。


「止めろ脩蛇!千霧様を放せ!」


空良の叫びが、神殿に哀しく木霊する。

千霧のもとへ行きたくても、呉羽に連れ戻されてしまう。


千霧の身体は間もなく脩蛇の口へと運ばれ、完全に見えなくなってしまった。


「そんな……どうして止めたんですか呉羽殿!」


空良の怒りの視線は、呉羽に向けられていた。

それでも呉羽は黙って横に首を振るだけ。


「くッ………!」


空良は呉羽の手を振り払うと、唇を噛み締める。


《力ガ満チル……満タサレル……》


千霧を飲み下した脩蛇が、禍々しく輝く眼で呉羽を捉えた。


《オ前モ人ナラザル者ダロウ……》


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