睡恋─彩國演武─

蛇は、獲物を噛まず、丸飲みにする。


「……ぅ……」


千霧は傷つかずに、脩蛇の体内に入り込むことに成功した。

わざわざ愚かにも身を捧げたのは、この目的の為だ。


起き上がると、脩蛇の体内の湿った粘膜に、懐剣で傷をつける。

傷は、浅くていい。

直接気を流せる穴があれば十分だ。


「木、火、土、金、水はこの身の相生、汝の相克。陽の力よ我が元へ集いたまえ」


その傷口を両手で塞ぎ、陽の気を集中させる。

脩蛇の中の陰の気が陽の気に反応し、脩蛇の身体に刺激を与えた。


相反する力が、互いに反発し合い、渦巻く。

その力が大きくなれば、一つの場所に留まるのは不可能。

弾けて、破壊する。


「脩蛇、お前の身体は滅びるんだ」


力の放出を防ぐために、どんどん陽の気を注いでいく。

千霧の額には玉のような汗が浮かんだ。


《グ……ググ……》


脩蛇が苦しさに呻き声をあげる。

それをじっと見ていた呉羽は、笑顔のまま眉ひとつ動かさない。

だが、時おり口角がつり上がり、まるで笑うのを堪えているかのようにも見える。


「呉羽……殿……?」


無意識に手が震えている。

空良は、呉羽を直視できなかった。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ──何でもないんです」


(この場で一番邪悪なのは……きっと脩蛇ではなく呉羽殿だ)


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