睡恋─彩國演武─
もう邪気は感じない。
あの時の嫌悪感も無い。
目の前に居るのは、四宝である白樹の王なのだ。
「ふぅ……」
由良は額に手を当て、息をついた。
「痛みはありますか、王様」
「いいや……由良、すまぬな。お前にこのような力があったとは──」
「礼には及びません。呪縛から解放するためとはいえ、王様に無礼を働きました。いかなる処罰も受けるつもりです」
「そのような愚かなことはせぬ。感謝するぞ、由良」
それから落ち着いた白王は、千霧を見ると深く頭をさげた。
「惑っていた私の耳にも届いておりました。貴方が朱陽の皇子様──…数々の無礼、お許し下さい」
途端に由良の顔からみるみる血の気がひいていく。
そして口を金魚のようにぱくぱくさせながら、声を上げた。
「し…しし……朱陽の皇子様ぁ!?」
「黙っていてごめんなさい。けど、そんなに驚かなくてもいいでしょう?声大きいし……」
千霧が耳を塞ぎながらなんと落ち着かせようとする。
「これ由良、静かにしないか!皇子の前で!」
「だって王様!朱陽の皇子様って言ったら、雲の上のような身分の方ですよ?それがこんな所にいたら……」
「あー、それなんですけど……」
口を挟んだ呉羽に視線が集中し、彼は困ったように髪をかきあげた。
「秘密にする……方向で…」