睡恋─彩國演武─


「でも藍王子って、どこに居るんだろう。もう城を出て何年も経つんでしょう?」

「そうですね、俺が奉公に行く前の話ですから……」

由良は難しい表情で指を折って数え始める。

「六、七年くらい前……でしょうか」

「それなら流石に、白樹にはもう居ない……よね?」

千霧はちいさくため息をつき、隣を歩く呉羽と視線を合わせた。


「もし白樹に居たなら、小さい国ですから、すぐに王に見つかるはずですね」


この三人で会話を続けると、どうしても話の内容が振り出しに戻る。

単刀直入に言えば、戻してしまうのは呉羽なのだが。

「……」


千霧は軽く頭を押さえ込んで思った。

……この二人の神経の図太さは、尋常じゃなく似ている。





──白樹の森を出てから、しばらく街道に沿って歩いていると、千霧が突然声を上げて立ち止まった。


「痛……ッ!足に何か……」

由良が急いで靴を脱がせると、何かに咬まれたような小さな傷口と、不気味な模様のある一匹の蜘蛛。

「うわっ!?」

驚いた由良が振り払うと、蜘蛛はちょうど呉羽の足元に着地した。

呉羽がためらいなく踏み潰すと、蜘蛛は黒い霧となって消えた。

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