睡恋─彩國演武─
「でも藍王子って、どこに居るんだろう。もう城を出て何年も経つんでしょう?」
「そうですね、俺が奉公に行く前の話ですから……」
由良は難しい表情で指を折って数え始める。
「六、七年くらい前……でしょうか」
「それなら流石に、白樹にはもう居ない……よね?」
千霧はちいさくため息をつき、隣を歩く呉羽と視線を合わせた。
「もし白樹に居たなら、小さい国ですから、すぐに王に見つかるはずですね」
この三人で会話を続けると、どうしても話の内容が振り出しに戻る。
単刀直入に言えば、戻してしまうのは呉羽なのだが。
「……」
千霧は軽く頭を押さえ込んで思った。
……この二人の神経の図太さは、尋常じゃなく似ている。
*
──白樹の森を出てから、しばらく街道に沿って歩いていると、千霧が突然声を上げて立ち止まった。
「痛……ッ!足に何か……」
由良が急いで靴を脱がせると、何かに咬まれたような小さな傷口と、不気味な模様のある一匹の蜘蛛。
「うわっ!?」
驚いた由良が振り払うと、蜘蛛はちょうど呉羽の足元に着地した。
呉羽がためらいなく踏み潰すと、蜘蛛は黒い霧となって消えた。