睡恋─彩國演武─
「ち、ちょっと待って下さい。千霧様が異形ってどういうことですか?だって普通の……」
「千霧様には性別が無いんですよ。生まれた時から、ずっと……」
呉羽は、自分の吐いた言葉に嫌気がさし、うつむいて乱暴に髪を掻き上げた。
「そんな──俺、ずっと普通の女の人だと……綺麗、だし……」
「仕方ないですよ。千霧様の場合、見た目だけで容易に判断できるものではありませんから」
そうして、何度も傷付いて。
何度も、苦しんだ。
『──由良は、私と同じなんだ』
いつか千霧が言った言葉を思い出し、由良は胸が締め付けられるのを感じた。
「違う。俺なんかより、ずっと、ずっと辛い──」
じわりと滲んだ涙を堪えるために、きつく口を結ぶ。
「……俺、それ聞いたら、なんだか恥ずかしいです。俺の悩みなんか、千霧様の痛みに比べたら、ちっぽけすぎて笑えてくる」
「由良……」
由良は背伸びをすると、濁った水の入った桶を持ち上げた。
「換えてきます。……ついでに顔を洗って、頭も冷やしてこようかな」
晴れ晴れとした由良の笑顔に、呉羽も頷いて手を振った。
「……ええ。ごゆっくり」