睡恋─彩國演武─
頭上からの声に、体がビクッと痙攣した。
途端に嫌な汗がだらだらと流れる。
危険を感じ素早く身をひるがえすと、異形が嘲笑しながら見下ろしていた。
「きゃはははッ!セリカの勝ち!かくれんぼ、おしまいだね!」
異形が満足気に高笑いをしている。
「……クスッ……ハハハハハッ」
それとは別の笑い声。
笑ったのは千霧だった。
「なにがおかしいの?」
笑うのを止め、異形が動揺したように問いかける。
「そうだね、『かくれんぼ』はおしまい」
「……え……ッ」
千霧は素早く異形の懐に飛び込む。
小柄な身体と素早さから、それは容易いことだった。
「あなたが私の間合いに入るのを待ってたんだよ。これで私の勝ちだ」
千霧はニヤリと笑って、その胸に勢いよく剣を突き刺した。
異形が苦しみに耐えきれずに喘ぐ。
それはまるで地鳴り。
もはや、セリカの声ではなかった。
異形がセリカの声を使い、千霧の動揺を誘っていただけの、小賢しい真似。
「言え。お前の主とは誰?」
異形を見下ろす千霧の瞳は、恐ろしく冷徹だった。
相手を威圧し、他の言葉を許さない。
それには、異形の方も怯え、ただ震えていた。
「……オマエ……主ト同ジ眼ヲシテイル……ソノ紅イ眼……」
「私は誰かと訊いた。それ以外は訊いていないだろう」
「……名ハ……言エヌ……言エバ……アノ方ハ……」
「言わないのか?それなら仕方ない」
千霧は冷めた瞳のまま、刀を異形から引き抜いた。
「残念だ」