睡恋─彩國演武─


千霧はうつむくと、否定の意思を込めて強く首を振った。


「──十分過ぎるほど、力になってもらってるよ。私が甘えすぎてるくらいに」


そのまま立ち上がると、縁側に出て風を受けながら目を閉じる。


「やっとわかった」


アイが言った言葉の意味が。

──それはとても、大切な事で。


振り返って、自然と笑顔をつくる。


「由良、私ちょっと出てくる。用事を思い出したんだ」


「……はい。じゃあ留守は任せて下さい」


頷くと千霧は廊下に出て、アイの姿を捜した。

いつもは目立つのに、彼女は何処にも見当たらない。


「あれ、どうかされました?」


千霧の様子を見て、声をかけたのは天祢だった。


「アイさんを捜しているのだけど……」


「姐さんなら、先ほどお客様と庭に──あ、ほら」


天祢が庭の方を指差すと、ちょうど窓枠から銀色の髪が見えていた。


「教えてくれてありがとう」

「いえ。……では、これで失礼しますね」


天祢はぺこりと頭をさげると、慌ただしく奥へ向かっていった。


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