睡恋─彩國演武─


「飼い慣らされやがって……!」


後退し、藍は圈を構えなおす。

呉羽も大剣を藍へ向け、千霧を後方へ押しやった。

藍は覚醒した四聖。

千霧の剣の腕は確かだが、ここまで殺気を放っている四聖相手なら、少し油断しただけで命取りだ。

主を護る使命感に駆られ、呉羽はそうしたのだった。


「へぇ。僕に剣を向けるの?それってちょっと無謀じゃない?──白虎は火気が苦手なんじゃないのかなァ」


弾むような声に、心が波立つ。

呉羽から溢れる殺気が肥大するのを、千霧は肌で感じ取った。

冷や汗と脂汗が、同時に吹き出す。


「図星だろっ!」


藍が圈を投げるのと、呉羽が剣を振り下ろすのとでは、どちらが速かったのか。

その圈は跳ね返り、また藍の手に吸い付くように収まる。

しかし次の瞬間、千霧目掛けてもう一つの圈が宙を舞った。


「危な──…!」


千霧の瞳孔が縦に伸びる。

背中に熱くて鋭い痛みを感じて、崩れるようにその場に座り込んだ。


「うぅ……」


千霧の服に、紅い染みが浮き、肩から腰辺りにかけて一本の筋が通る。


「……最初からこれを狙っていたんですか、藍」


「──ふふ、よくわかったね」

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