睡恋─彩國演武─


藍が歪な笑顔を浮かべて千霧を見つめている。

迷いが吹っ切れたかのように呉羽の瞳が藍を鋭く捉えた。


「ふざけるな!」


滅多にあげない、哀しみと怒りの混じった怒声。

友として、四聖として、同じ道を共に歩んできたはずだった。

──どこですれ違ってしまったのか。


「やっと本気になってくれたね……」


一瞬だけ、藍が冷静さを取り戻したように感じた。

──が、彼はまたニタリと笑って、再度炎で武器を造り出す。

今度は、『錘』を。


圈も錘(すい)も、演舞に使用されている華美な武器で、藍はそれを舞うように素早く繰り出して攻撃してくる。


「でも生ぬるいんだよ!アンタの剣はさぁ!」


呉羽の大剣と違って、小さく軽い錘を巧みに操る彼の攻撃は、避けるのだけでも相当な体力を要する。


「くっ……!」


紙一重で身をかわすが、この炎の中ではじりじりと身を焼かれ、精神力をも消耗していく。


「あーらら、そろそろ限界かな?動き、鈍ってるよ?」


軽やかに、水面に踊る白鳥の如く、藍は息ひとつ乱さず華麗に舞う。

この結界の中、彼には『地の理』がある。

火気は呉羽の相克。

受ける損害は、通常の二倍だ。


「ハァッ!」


──痛撃。
腹部に、藍の持つ錘が飛び込んできた。


「ぐ……ッ!」


呉羽の口の端から、鮮血がほとばしり、その場に膝をつく。


「──お遊戯終了かな?つまんないの」


「煩い……」


言うことをきかない体に無理をさせて、呉羽は再び立ち上がる。

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