睡恋─彩國演武─
突然の眩しさから、きつく瞼を閉じて顔を背けた藍だったが、気が付くと警戒して身を屈めた。
光が呉羽と千霧を包み、此方に向けられた千霧の背中の傷が、あり得ない速度で治癒していくのが見える。
千霧はゆっくりと立ち上がり、藍の方へと振り返る。
「──朱雀、許せない」
声色が違う。
血のような真っ赤な瞳に、ぞくりと悪寒が走った。
千霧が一歩、踏み出したかと思うと目にも留まらぬ速さで死角の懐へ潜り込んでくる。
(速い──!!)
避ける間もなく、藍の胸に筋が入り、肉が割れて鮮血が噴き出した。
「くっ……う……ッ」
この間合いでは、次の一撃で確実に殺される、と藍は覚悟し目を瞑る。
(永かった──。やっと、自由になれる)
「………」
だが、いつまでたっても、千霧が剣を振る気配がしない。
薄目を開けると、何かに脅えたような目をしている千霧の姿が映った。
「……できない。藍は……最初から……私に、殺されようとして──」
剣を握る手が、震える。
藍が望むのは、運命を“変える”のではなく、“終わらせる”ことだと気付いてしまったから。
彼の目を見れば容易にわかる。
死を覚悟した瞳、死に対する憧れの色。
なぜ、もっと早く気付けなかったのか。