睡恋─彩國演武─
「──変わってるから、僕の心が澄んでるなんて言い出すんだ」
視線を重ね、いつもの調子で彼は意地悪い微笑を浮かべて、両手に炎を集める。
その行動に千霧は一瞬身を退いたが、すぐに警戒を解く。
「──それ、胡弓?」
「うん。だって聴かせる約束だっただろ」
平然と言い放つ藍の手には、いつの間にか炎を具現化した胡弓があった。
「もしかして、いつもそうやって作ってるの?」
「そうだよ。器用でしょ」
「……本当に」
どこから湧き出す自信なのかは知らないが、前向きな姿勢が少し羨ましい。
藍は側にあった大きめの石に腰掛け、胡弓を弾き始めた。
やはりうっとりするほど澄んだ、柔らかな音色。
夜奏が風に乗り、反響して、まるで世界から確立したような錯覚をおぼえる。
「母様が弾き方を教えてくれたんだ。僕よりもっと上手で……」
思い出して、振り切る。
母はもう居ない。
「ううん、やっぱり僕の方が上手だ」
そうやって自分に言い聞かせて、追い詰めてしまう。
滲んだ涙を悟られぬよう、藍はそっと顔を拭った。