睡恋─彩國演武─





「あのぅ……王子……」


「何?」


明らかに不機嫌な声に、由良は凍りついた。

怒って、いる。


「……」


黙って身を退くと、藍は振り返って問い詰める。


「だから、何?」


真っ赤な瞳が、由良を見据えていた。

蛇に睨まれた蛙のように、身動きがとれなくなってしまった。


「お、俺……王子に無礼な口を……」


「……」


「あの……」


ちら、と上目遣いに藍を見ると、彼はツンとそっぽを向いていた。


「すみませんでした!」


必死になって頭を下げる由良を見ていると、少々罪悪感がある。

からかうのはこのくらいでいいか、と藍は由良の頭を撫でた。


「怒ってないよ。黙ってられなかったんだろ?」

「……はい」

「ま、由良はあそこで騒いでくれて良かったんだよ。あれじゃさすがに千霧が可哀想だから」

「──は?」


話の意味がよく解らず首を傾げると、藍はクスリと笑った。

< 248 / 332 >

この作品をシェア

pagetop