睡恋─彩國演武─
*
「あのぅ……王子……」
「何?」
明らかに不機嫌な声に、由良は凍りついた。
怒って、いる。
「……」
黙って身を退くと、藍は振り返って問い詰める。
「だから、何?」
真っ赤な瞳が、由良を見据えていた。
蛇に睨まれた蛙のように、身動きがとれなくなってしまった。
「お、俺……王子に無礼な口を……」
「……」
「あの……」
ちら、と上目遣いに藍を見ると、彼はツンとそっぽを向いていた。
「すみませんでした!」
必死になって頭を下げる由良を見ていると、少々罪悪感がある。
からかうのはこのくらいでいいか、と藍は由良の頭を撫でた。
「怒ってないよ。黙ってられなかったんだろ?」
「……はい」
「ま、由良はあそこで騒いでくれて良かったんだよ。あれじゃさすがに千霧が可哀想だから」
「──は?」
話の意味がよく解らず首を傾げると、藍はクスリと笑った。