睡恋─彩國演武─
肩からずり落ちた緋色の羽織を引き上げると、藍は苦笑した。
「──帰るんですか」
「逃げても仕方ないからね」
僕が王になったら城に女は入れないよ、と悪戯っぽく微笑む彼に呉羽は大きく頷いた。
*
膝に冷たいものが触れた。
ぽつりぽつりと、水滴が触れては落ちていく。
空気に湿気が混じる。
千霧は月魂を鞘に納めると立ち上がった。
廊下から小さな足音が近寄ってきて、そちらに目をやると天祢が居た。
「雨が降ってきましたね。星麟の雨は冷えますから、風邪をお召しにならないようにしてくださいね」
天祢は御簾(みす)を下げながら、千霧にそう言った。
「ありがとう。──私も手伝うよ」
天祢の背丈では、御簾を降ろすにも一苦労だ。
千霧は彼の後ろから、ひょいと手を伸ばし、留め紐をほどいた。