睡恋─彩國演武─


肩からずり落ちた緋色の羽織を引き上げると、藍は苦笑した。


「──帰るんですか」


「逃げても仕方ないからね」


僕が王になったら城に女は入れないよ、と悪戯っぽく微笑む彼に呉羽は大きく頷いた。





膝に冷たいものが触れた。

ぽつりぽつりと、水滴が触れては落ちていく。

空気に湿気が混じる。

千霧は月魂を鞘に納めると立ち上がった。

廊下から小さな足音が近寄ってきて、そちらに目をやると天祢が居た。


「雨が降ってきましたね。星麟の雨は冷えますから、風邪をお召しにならないようにしてくださいね」


天祢は御簾(みす)を下げながら、千霧にそう言った。


「ありがとう。──私も手伝うよ」


天祢の背丈では、御簾を降ろすにも一苦労だ。

千霧は彼の後ろから、ひょいと手を伸ばし、留め紐をほどいた。


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