睡恋─彩國演武─
御簾が降りると、雨の音が少し遠くなる。
天祢は礼を言うと微笑んだ。
「いつもは藍兄さんが、そうやって手伝って下さいました」
「藍が?」
「はい。ずっと、兄さんが私の面倒を見てくれましたから」
天祢は白い頬を染めながら、誇らしげに言った。
つられて千霧も頷く。
少年の笑顔が、妹のように大事にしてきた沙羅と重なった。
ずっと傍にいて、離れた日など一日もなかったのに。
脳裏に蘇る笑顔は、泣き顔に変わった。
最後に見たのは、泣いた顔だったんだ。
「良い……お兄さんだね。私にも妹分がいるけれど、泣かせてばかりで」
天祢のように、兄に感謝することすら出来ないなんて。
本当は、まだ恐れている。
いつ兄が異形になって、自分を殺そうとするか……なんて考えている。
兄様が、兄様の意思でやったことではないと分かっていても、恐怖を拭い去ることは出来なかった。