睡恋─彩國演武─





その頃、千霧と呉羽は街の中を散策していた。

あまり外界に慣れていない千霧には、活気のある青城が新鮮なのだろう。

好奇心からなのか、いつもとは違って子供のように呉羽の腕を引っ張る。

呉羽は苦笑しつつも、滅多にない千霧の我が儘に付き合っていた。

藍は付き合うのが面倒だと言い、由良も自分の主人の我が儘に従って別行動だ。


「ねえ、あれは何の店だろう?」


「千霧様、あまり急ぐと人にぶつかりますよ」


「っ!」


どうやら呉羽の忠告は間に合わなかったらしく、千霧は何かに額を打ち付けた。


「あぁ、言わんこっちゃない……」


打った箇所を押さえて、千霧は顔を上げる。


「ごめんなさい!大丈夫ですか?」


見上げたところで、冷たい灰色の瞳と目が合った。

射ぬくような視線に、金縛りのような感覚をおぼえる。

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