睡恋─彩國演武─
確かに、喋る虎など傍目からしたら異形の存在。
見えない方が良いのかもしれない。
「千霧さま、神様みたい──」
子供の目は、いつでも純粋に真実を捉えているはずなのに。
──見えているはずなのに、どうしてこの子はそんな風に言うのだろうか。
「あなた達のこと、私が絶対に護るから」
童女は「うん」と期待に大きく頷くと、笑って手を振った。
「千霧様、振り落とされないように気をつけてくださいね」
「うん……でもどうしてそんなに急ぐの?」
「どうしてって、当たり前でしょう?主の留守で王宮中が騒ぎになりますよ」
「それはまずいね」
千霧は渋々、呉羽の首にしっかりとしがみついた。
──ああ、温かい。
ずいぶん昔から、この肌に触れる柔らかい感触を知っている気がする。
そう。
遙か遙か、遠い思い出のもっと奥。
きっと生まれる前に、これと同じ感触を感じていた。