睡恋─彩國演武─

しばらく黙っていたが、千珠がようやく口を割った。


「──男です」


淡々とした口調で告げられ、珀は妙な脱力感をおぼえる。

千珠は再び口を開いた。


「ひとつ申し上げておきます。……もし私が男でなくなれば、それは千珠ではありません」


奇妙な言葉だった。

何か聞いてはならないものに触れたような、ピリッとした空気が広がる。


「──ああ。覚えておこう」


短く答え、話を切る。

それ以上、詮索する気はなかった。

千珠の深いところへ触れてしまえば、戻れなくなる。

──そんな気がしたのだ。


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