睡恋─彩國演武─
「禍獄って国、知ってるか?」
珀の問いに、千珠は首を振った。
「そうか。じゃあ知っておけ。これからそこに向かうからな──天夢(てん)!」
珀が呼ぶと、どこからともなく、金毛に紅蓮の目をした大きな獣が舞い降りた。
狐のようだが、翼がある。
それは珀になついているようで、咽を鳴らしながら擦り寄った。
「よしよし。良い子だ、天夢」
「この子は?」
「──異形だ。でも人に危害は加えない。オレの弟みたいなものだ。ほら千珠、さっさと来い」
珀は天夢の背に乗ると、千珠に後ろに乗るよう命じた。
「よろしく、天夢」
千珠は言われた通り天夢に飛び乗って、それから背を撫でた。獣ではない、しかし獣の匂いが鼻を掠める。
「蒐は逃げてきた民と合流してくれ!オレ達は先に行く」
「御意。くれぐれも、お気を付けて」
「分かってる。じゃあ、頼んだぞ」
天夢は再び翼を広げ、二人を乗せて霧の間に消えるように、夜の闇に紛れた。