睡恋─彩國演武─
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王宮に着いた後も、ざわついた気持ちはおさまらないままだった。
「千霧さま、急に居なくならないでくださいな!心配したんですからね!」
沙羅が顔を赤くして、滅多に出さない大きな声をあげながら、自身より少し背の高い千霧を見上げた。
微かに、目が潤んでいるように見える。
心配性な沙羅のことだ、よほど落ち着かなかったのだろう。
「沙羅……」
千霧は目の前の沙羅を抱き寄せて、背中をポンポンと優しく叩いた。
「もう何処にも行かないから。心配かけたね」
自分の身勝手の為に一体何人の人を泣かせれば満足するのだろう。
「なんだか私、千霧さまが遠くへ行ってしまうようで……不安で……」
沙羅はしゃくりあげそうになりながらも、必死にそう訴えた。
彼女は千霧のごく身近な、家族のような存在で、召し使いといえど、王宮の中でも一目置かれている。
「大丈夫だよ。私はずっとここにいる」
そう言い聞かせると、腕の中で沙羅は何度も頷いていた。
実際のところ、千霧の考えは沙羅に告げたものと真逆だった。
王宮を出ようと考えていたのである。