睡恋─彩國演武─
皆にどう思われているかは、薄々勘づいていた。
母でさえ、以前は自分を殺そうとしていたのだから。
「……私にはわかるの。今、何か不吉なことが起ころうとしている。異形がざわつき始めているわ」
「そういえば、異形が『主』が目覚めると申しておりました。私の眼は、その主の眼と同じだと……」
「あなたと一緒に居る呉羽さんなら、何か知っているかもしれないわね。──千霧、忘れないで」
そう念をおすと、千霧の両手を握り、彼女は再び口を開いた。
「あなたは、それとは絶対に違うの。何が起こっても、けして諦めないで」
最後に千霧を抱き締めると、彼女目の前から消えていた。
足下を見れば、母の居た場所に何か光るものが落ちている。
拾い上げると、それは髪留めだった。
紅い細工の、見事な蓮を模したもの。
生前、母が肌身離さずつけていたものだ。
千霧は髪をほどくと、その髪留めで結い直した。
千霧の薄い色の髪に、髪留めの紅がよく映えていた。