睡恋─彩國演武─
守護どころか、陽を護る龍は消滅してしまった。
陽を待つ“破滅”の二文字が脳裏に浮かぶ。
喉がゴクリ、と音をたてた。
しばし沈黙が続く。
目の前に置かれた茶が、口をつける前に冷めてしまっていた。
すでに香りの無くなったそれをゆっくりと一口飲むと、千霧が口を開いた。
「……陽を救う方法を、貴方なら知っているのでしょう?」
千霧のやけに落ち着いた口調に驚きながらも、呉羽は冷静に答えた。
それが千霧の望みだから。
「完全なる龍に成られませ」
たった一言。
なのにその一言が秘めた意味は、とても大きかった。
それは千霧に人間として生きるか、異形だということを認め、龍として生きるかの大きな選択を強いていた。
「……私は」
再び視線を合わせると、千霧の瞳に迷いの色などなかった。
「私は元より、人の身ではない」
第二皇子は不完全で、そして、人の子ではなかった。
……そう、思えばいい。
「千霧」
皇に初めてそう呼ばれた、あの瞬間だけは確かに、自分は人でいられた。
それで十分ではないか。
「私は、龍になる」
千霧という名で生を受けた時から、すでにこうなることはわかっていたはずだ。