睡恋─彩國演武─


「……それならどうして、謝るの?」


単純に知りたいだけだった。

だって、あの日の私はまだ子供だったのだから。

大した答えなんて、別に欲しくはなかった。

「私が異形だから、あなたを人間に生めなかったの」


そんな答えは、聞きたくなかった。

目の前の道が、闇に包まれていくような絶望。


「ごめんなさい。本当なら、その呪われた宿命は母のもの。宿命があなたを殺せというなら、私が死ぬわ」


「母様……?」


いつの間にか母の手に握られていたのは短刀。

その先にある意味を知らず、刃先から零れる光を見つめていた。


「……殺してあげられなくて、ごめんね。強く、生きて……?」


それが母の最後の言葉になった。


「……母様……かあさま!」


いつまでも目を覚まさない母に不安を抱き、何度も体を揺すって。

異常に冷たい身体。


「うぁああぁあ!」


『死』というものを、一番大切な人によって知らされた。


大切な人の、死によって。


だからこの運命からは逃げられない。

逃げてはいけないんだ。



< 62 / 332 >

この作品をシェア

pagetop