睡恋─彩國演武─
呉羽はじっと何かを考え込んでいたが、しばらくして口を開いた。
「……それは、難しいかもしれませんね」
半ば諦めたような呉羽の口調に驚いてしまう。
「……どうして?」
「今の紫蓮様はとても不安定です。いつまた異形に変異するかわからない。……危険なんです」
「異形になる……?」
彼は人間として生まれたはずなのに。
生きている人間が異形になるなんて、聞いたこともない。
「変異なんて……おかしい……」
異形に生まれたのは千霧だけと言われてきた。
紫蓮が異形に変異なんてありえない。
あっては、ならない。
「千霧様、いけませんよ。それ以上は、まだ考えてはいけません」
少しきつい呉羽の口調に、千霧は渋々黙るしかなかった。
まだ収集のつかない記憶に戸惑う千霧を、呉羽は心配そうに見つめた。
「……今は、ご自身の事のみをお考えください」
彼の言葉を聞いてか聞かずか、力無く頷くだけで千霧は口を開かなかった。