睡恋─彩國演武─

呉羽はじっと何かを考え込んでいたが、しばらくして口を開いた。

「……それは、難しいかもしれませんね」

半ば諦めたような呉羽の口調に驚いてしまう。

「……どうして?」

「今の紫蓮様はとても不安定です。いつまた異形に変異するかわからない。……危険なんです」

「異形になる……?」


彼は人間として生まれたはずなのに。

生きている人間が異形になるなんて、聞いたこともない。


「変異なんて……おかしい……」


異形に生まれたのは千霧だけと言われてきた。

紫蓮が異形に変異なんてありえない。

あっては、ならない。


「千霧様、いけませんよ。それ以上は、まだ考えてはいけません」

少しきつい呉羽の口調に、千霧は渋々黙るしかなかった。

まだ収集のつかない記憶に戸惑う千霧を、呉羽は心配そうに見つめた。


「……今は、ご自身の事のみをお考えください」


彼の言葉を聞いてか聞かずか、力無く頷くだけで千霧は口を開かなかった。


< 64 / 332 >

この作品をシェア

pagetop