睡恋─彩國演武─
その日、いつものように紫劉は願っていた。
「神よ、陽にご加護を──…」
祈りはじめてから、実に千日目。
ついに、紫劉の前に神が姿を見せた。
「汝の願い、全て聞き届けよう。何なりと申せ……」
それは龍の姿をした神だった。
“全て”という言葉は、愚かな人間の欲望を掻き乱すには十分だ。
「陽をお護りください」
「──ほう。だが、汝の望み、他にもあるのではないか?」
「!」
「………申せ」
気付いた頃には、すでに龍に心を操られていた。
欲望に支配され、口にしたのは。
「完璧な、完璧な男児をお授け下さい!知にも、武にも長けた、皇となるに相応しい男児を!」
必死にそう叫ぶ声。
「よかろう」
龍が満足気にそう告げると、我に返って後悔した。
「ならば汝に対価を求めよう。生まれる赤子は二人。うち一人は異形の子よ」
「な……なんと……」
なんという契約をしてしまったのだろう。
後悔するには、すでに遅すぎた。
異形の子を産むなど禁忌。ましてや、その子は一国の皇の皇子である。
「……私は悔やんだ。千霧の魂を龍に売ったのだ。あの子にはいくら謝っても到底足りない」
「龍の目的は、最初から千霧様だったはず。自らの消滅を知った龍は、自分の魂を容れる『器』の体を欲していたのです」
千霧は、不運としか言い様のない星のもとへ生まれてしまった。