睡恋─彩國演武─
その契約から二年経ち、紫蓮が誕生した。
健康な男子で、すぐに彼が、龍が授けた『完璧な男児』だと理解した。
しかしその後、事件が起こる。
「貴妃様、ご懐妊です」
嬉しいはずの知らせに、游蘭は顔を曇らせた。
……紫劉の子ではなかった。
「游蘭は、人に化けた龍と交わってしまったのだよ」
游蘭は己を恥じ、自害を何度も試みた。
だが、龍の力が強く、それすらも許されなかった。
「私は、異形の子など産みませぬ……!」
何度も、游蘭は己に刃を向けながら泣いた。
その涙は、全てあの契約の為に流されている。
紫劉の犯した罪の為に。
……そして運命の日。
「あの子が、千霧が産まれた。皆の予想通り──」
その姿は、人知を超えて美しく、真っ白な雪のようだった。
異形であったのは、性別を持たずして産まれたから。
「私の罪を背負ったお前を、神と契るという意を込め、『千霧』と名付けよう」
その時、千霧は澄んだ瞳で笑っていた。
自分の宿命を知らず、ただ無邪気に。
「私はあの子の笑顔を見て、自分がどうしようもなく情けなく感じた」
紫劉は腕を組み直して、視線を泳がせた。
「……千霧が成長するにつれ、私は罪の意識に押し潰されそうになっていった。そしてあの子を遠ざけた結果があの様なことに……」
それが千霧と彼を引き離す原因となったのだ。
互いを思う気持ちが、いつしかすれ違い、恐怖へと変わった。
「皇はご存じでしょうか?この国の現状を……」
「彩國の……?」
「貴方が契約を交わし、国を護ると誓った龍はすでに消滅し、異形達が凶暴化して、彩國は破滅へ向かっているのです」