睡恋─彩國演武─
自分を捕らえる細い腕が頼りなげに感じられ、上から手を重ねる。
「兄様のせいでは……ありません」
そう告げるも、紫蓮は黙したままだった。
不安げに顔を上げる。
「兄──…」
千霧の頬に、冷たいものが当たって、はじけた。
冷たいのに、温かい。
温かいのに、どうして。
(どうして兄様の手は、こんなにも冷たい──?)
後ろから抱き寄せたのも、全ては顔を見せないためだったのだ。
「僕のせいなんだ。君が傷ついたのも、“無性”になったのも……全部」
「……無性に……なった、のも……?」
「僕は神に創られた。……その対価に神が奪ったものが、君の……」
「兄様っ!」
その先は、聞きたくなかった。
今、その言葉を聞いても、受け入れられない。
突然の大声に驚いたのか、紫蓮は押し黙った。
不意に緩まる力に、千霧は素早く腕の檻から脱した。
「いいんです。私には、生まれた時から無いもの。無いのが普通なんです。だから、……私にとって必要ないものです。“性”は」
握りしめた拳の中に、じっとりと湿った感触。
「でも……」
「理由はなんであれ、私は誰も憎んだりしません」
千霧は苦しげな笑みを浮かべた。