睡恋─彩國演武─

「だから、兄様も私のことで罪の意識なんて持たないで下さい」


誰よりも不幸な身の上なのに、自分自身よりも他人を思いやるなんて。


「……ありがとう」


千霧の発する言葉は全て、紫蓮への救いとなった。

その一言々に癒され、解放されていく。

……同時に彼は思う。

その優しさは、逆に千霧を不幸にするのではないか、と。

他人を思いやり過ぎて、いつか千霧が犠牲になるのではないかと。

考えただけで、胸が痛んだ。


「ねぇ、千霧……」


「なんですか?」


「もしも僕が異形になったら、殺すことを躊躇わないで」


「……躊躇うどころか、殺せません。私は、救う方法を考えます」


紫蓮の言葉に半ば呆れたような口調だったが、千霧は迷いなく言い切った。


「君はそう言うと思った」


紫蓮は自嘲気味に笑うと、千霧の頭をポンポンと叩いた。


「子供扱いしないでくださいっ」


拗ねたような口調が、年相応に思えた。

桃色に染まった頬が愛らしい。


「……してないさ。千霧は大人び過ぎてるくらいだもの」


「ふ……普通ですよ……」


「どうかな。千霧、同い年の者と話した事は?」


言われてハッと息を飲む。

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