睡恋─彩國演武─
よくよく考えてみると、街で少しばかり顔を合わせる者もいるが、生活のほとんどを宮中で過ごす千霧にとって、同い年の者と話す機会は皆無に等しかった。
宮中の者は、召し使いや大臣を含めても皆遥かに年上。
唯一沙羅とは歳が近いが、彼女は一つ年下だ。
「ありません……」
蚊の消えるような声で告げると、紫蓮はクスクスと笑った。
「じゃあ、世間勉強でもしに、外の国に行ってみたら?」
その言葉が意外すぎて、千霧は一瞬絶句する。
「え……それって……」
「……後は、ちゃんと君から父上に話したらいい。行きたいんでしょう?朱陽の外」
固まっていた千霧の表情が一気に明るくなる。
「──はいっ!」
目を輝かせ、何度も大きく頷く。
「……うん。じゃあ、おいで。父上に話すなら、早い方がいいよ」
*
皇に会うのには、正直まだ迷いがあったが。
それでも千霧は、歩みを止めず、兄の背にぴったりと添って廊下を進む。
いつもは自ら近寄ることのない皇の自室前。
ひんやりと重い空気に、少し呼吸が荒くなった。
胸元に拳を握り、ゆっくりと深呼吸をする。
そして、千霧は目を開くと、扉へと手をかけた。