睡恋─彩國演武─

よくよく考えてみると、街で少しばかり顔を合わせる者もいるが、生活のほとんどを宮中で過ごす千霧にとって、同い年の者と話す機会は皆無に等しかった。


宮中の者は、召し使いや大臣を含めても皆遥かに年上。

唯一沙羅とは歳が近いが、彼女は一つ年下だ。


「ありません……」


蚊の消えるような声で告げると、紫蓮はクスクスと笑った。


「じゃあ、世間勉強でもしに、外の国に行ってみたら?」


その言葉が意外すぎて、千霧は一瞬絶句する。


「え……それって……」


「……後は、ちゃんと君から父上に話したらいい。行きたいんでしょう?朱陽の外」


固まっていた千霧の表情が一気に明るくなる。


「──はいっ!」


目を輝かせ、何度も大きく頷く。


「……うん。じゃあ、おいで。父上に話すなら、早い方がいいよ」





皇に会うのには、正直まだ迷いがあったが。

それでも千霧は、歩みを止めず、兄の背にぴったりと添って廊下を進む。


いつもは自ら近寄ることのない皇の自室前。

ひんやりと重い空気に、少し呼吸が荒くなった。

胸元に拳を握り、ゆっくりと深呼吸をする。


そして、千霧は目を開くと、扉へと手をかけた。






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