睡恋─彩國演武─
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「ねぇ、千霧さま。セリカちゃん、もう帰ってこないの?」
童女(わらわめ)は、紅い風車を片手に、大きな丸い目に涙を溜めて千霧を見上げた。
あれから十六年。
千霧は美しく成長を遂げ、その優しさと聡明さから、朱陽の民からは絶大に慕われていた。
「いつかきっとまた逢える。だから、もう泣かないで」
着物の袖で、精一杯涙を拭う。
小さな子供のそんな姿を見るのは、胸が痛む。
「うん、千霧さまが言うなら信じる。もう泣かない!」
……笑顔。
本当は哀しいのに、無理をしているのだ。
それが痛いほど伝わってくる。
「強い子だね」
千霧は童女を抱き締めると、あやすように頭を撫でた。