睡恋─彩國演武─
彩國を覆う森と、朱陽の都の間にある小さな集落に住んでいた、セリカという名の少女が死んだ。
遺体は四肢が切り刻まれて無惨な状態で、生前の面影は無くなっていた。
こんな残酷な真似は、他でもない『異形』の仕業だ。
明るく、皆から可愛がられていたセリカの死は、多くの民達の不安と悲しみを招いた。
「皇子様、何故あの子が死ななければ──陰が憎い。誓いを破った陰が……!!」
セリカの母親は、我が子恋しさに涙ながらに訴えた。
本来、異形は陰から出てはならない存在。ゆえに、陽に入るは禁忌。
陰とは、国を別つとき約定を交わしたはずだった。
『一つ、陰は異形を国外にけして出さぬこと』
陰は、今まさにその約定を破らんとしているのだ。
「母殿、陰の状況は私にもわかりません。けれど、セリカの死を無駄になどしたくない。陰の皇とは、正式に一度話し合う必要があるようです……」
母親は頷くのが精一杯の様子で、返事など望める状況ではなかった。
無理もない。
娘の死という辛い現状を受け入れ難いのだろう。
「付近の森は私が見回っておきます。皆さんは、あまり邑の外へ出ないようにしてください」
なぜこんな事態になったのか。
戸惑っているのは、千霧も同じだった。