睡恋─彩國演武─
「失礼、します──…」
頑丈な造りのそれは重く、千霧の力でゆっくりゆっくり時間をかけて開いてゆく。
少し扉が持ち上がるだけで、心臓が速さを増して跳ね上がる。
「……落ち着いて。焦る必要はないから。一人で大丈夫だね?」
小声で、紫蓮が囁く。
「は、はい……」
それでもなんとか、扉を完全に開くと、深々と頭を下げてから足を踏み入れた。
「──千霧か」
部屋の中央の椅子に、その人は座っていた。
重たい口をなんとか開く。
「……先日の無礼、どうか御許し下さい」
「その事なら良い。そこに腰掛けなさい」
紫劉は自分と向かい側にある椅子を指さした。
千霧は遠慮がちにおずおずと浅く腰掛け、紫劉を見た。
「……全て呉羽殿から伺っている。彩國の状況もな」
ひとつの、小さな溜め息。
「そう、ですか」
「──して、お前は何を望む?」
望みなんて、最初からただ一つだけ。
覚悟はできている。
あとはそれを、言葉にすればいいだけ。
簡単なことじゃないか。
「私は、この国を助けたい。黙って滅びを待つなんて嫌なんです。お願いします、私の旅立ちを、どうかお許し下さい」
千霧は深々と頭を下げる。
じっと目を瞑って、跳ねる心臓を押さえつけ、皇の返答を待った。