睡恋─彩國演武─
まるで、砂時計の中に自分だけが取り残され、『永遠』という海の中でもがくかのようだ。
でも、自分の意思では脱け出せない。
一瞬、自分を取り巻く世界が無音になった。
しかし、皇の答えは千霧の予想していたものとは違った。
「──お行き。私が叶えてやれる最初の、お前の我が儘だ」
紫劉は、不器用に笑った。
「良いの、ですか?本当に……?」
信じられなくて、千霧は再度問う。
「ああ。二言は無い」
千霧に歓喜と安堵の波が押し寄せる。
身体から力が抜け、椅子に半ばもたれ掛かるように腰掛けた。
「有り難う御座います。父様」
淡い微笑の後、紫劉は腕を組み直した。
「お前から父と呼ばれたのは、何年ぶりだろうな……」
遙か遠い過去を振り返るように、宙を仰ぐ。
「やはり私から父と呼ばれるのは、お気に障りますか?」
「……いいや、我が子に父と呼ばれぬ親ほど哀しいものはない」
紫劉は千霧の頭をそっと撫でた。慈しむような、優しい手つきで。
「……っ」
昔に感じただけの、懐かしく、暖かい父のぬくもり。
「お前は、私にとっての誇りだ。行っておいで、私はいつでも、お前を想う。……今まで、辛く当たってすまなかったな」
「お……父様……」
心の月が満ちる。
初めて、親子として心が繋がった。
近くにあるのに、手に入れるのに時間がかかるこの感情。
それは、『絆』。
「はいッ!父様……」