睡恋─彩國演武─
批判が罵声へと変わるのは時間の問題だった。
もともと千霧のことを良く思わない家臣は少なくない。
「そのようなつもりはありません。しかし、国外へ出るにあたり、私の存在が知れれば、朱陽の皇の名が汚れます」
陽の皇の血を継いだ皇子の存在を隠していたのだから、皇にも責任が問われることになる。
そうなるより、千霧の存在を隠し通すのが最良の策なのだ。
まさに鶴の一声、その言葉に広間全体が静まりかえった。
「現在、私は朱陽の中だけに生きる存在。すなわち、朱陽の者が洩らさなければ秘密は守られます」
「……ですが、朱陽は交易も盛んな地。国外からは大勢の者がやって参りますぞ?」
大臣の言葉に、千霧は微笑する。
「──私の名を口にするのを禁じましょう。異形の狙いは私のようですし、口に出さない方が民も危険にさらされないはず」
「わ、わたくしはそれで宜しいかと。実際、千霧さまを狙って異形が徘徊しているのなら、民もその方が安全でしょうし……」
控え気味に沙羅が肯定すると、その後異議を唱える者は出てこなかった。
「では、千霧の言う通り秘密は守るように。その旨を民へ伝えておきなさい」
「御意」
さすがに正式な次期王候補である紫蓮の言葉にに異を唱えるなど許されず、大臣が一人、席を外した。