睡恋─彩國演武─

少年は頭を下げ、口元だけで淡く微笑む。


「玄武は必ず、貴方を主と認めるでしょう」


そう言って、彼は暗闇の向こうへと指を指した。


「玄武はすぐ傍にいる。でも、彼は苦しんでいる。早く見つけて下さい。でないと、光は消えてしまう……」


少年は、千霧を案内するかのように暗い道を進み始めた。


「ねぇ、待って、あなたは──…」


その背に向かって手を伸ばすが、あと少しという所で届かない。


少年はゆっくりと振り返り、仮面に手をかけた。


「また、すぐ会えますよ……」


ゆっくりと仮面が外れていくのを見つめながら、千霧の視界は闇に包まれた。

最後に、彼の口元が小さく弧を描いた気がした。







「……っ」


我に返ると、全身にびっしょりと汗を掻いていた。

服が肌にへばりつく不快感。


「あぁ、良かった。やっと目を開けて下さった。……ずっとうなされていたみたいですけど、お加減は?」

「だ、大事ないよ……」

「そうですか。それを聞いて安心いたしました」


呉羽は胸を撫で下ろすと、持っていた濡れ布巾を千霧に手渡した。


「汗、気持ち悪いでしょう?私は外に出てますから……」


立ち上がろうとした呉羽の服の裾を掴む。


「いい。ここに居て。一人になりたくないんだ……」


不甲斐ない自身を心の中で叱咤しながら、千霧はうつむく。

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