空のギター
 だが少年は、そんな二人にはお構いなしに、続けて頼星にこう言った。



「君もモデルとかタレントの方が向いてんじゃないの?整った顔してんだし!」

「ふざけんな!!」



 再び掴みかかろうとする頼星を、雪那がまたもや止める。気が短い頼星のことだ。腸が煮えくり返る寸前かもしれない、と雪那は思った。



「頼星落ち着け!こんな奴なんか相手にしなくて良いから。」

「……分かった。」



 そう言った頼星が少年をキッと睨めば、彼は思わず後退りする。少年は「チッ……何だよ、訳分かんねぇ!」と呟き、雪那を見てこう言った。



「君、こいつと関わらない方が良いんじゃない?こんなよく分かんねぇや……」

「“ふざけんな。”」



 ──その場に居た全員が自分の耳を疑った。今までそんなに低くはなかった雪那の声が、急に別人のように低くなったのである。言われた少年本人は誰よりも混乱していた。雪那の声が今までとは全く違う、低く恐ろしいものに聞こえたからだ。

 自分の耳がおかしくなったのかどうかは分からない。しかし、自分を氷の刃ような冷たい目で見ている小さな少年への恐怖で1ミリも動けなかったのである。
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