空のギター
「番号は……28番!28番です!!紙をお持ちの方、挙手をお願いしまーす!!」



 誰もがキョロキョロと周りを見回す中、おもむろに挙がった片手をステージ上の司会者と出演者達が発見する。「あ、いらっしゃいましたね」と呟いた司会者は、マイクを持って客達の群れへ入っていった。

 手を挙げたのは、父親に背負われている小学生くらいの少女だ。彼女達の傍らには母親も居て、娘の幸運を喜んでいる。



「おめでとうございます!お名前とお年をお願い出来ますか?」

「浦田みづきです!10さいです!!」

「みづきちゃんですね。誰に歌ってもらいましょうか?」



 司会の女性にマイクを向けられ、みづきという少女は父の肩で考え込んでいる。やがて彼女は、ステージに立っている一人の人物をまっすぐ見つめて答えた。



「Setsuna君に……」



 彼女が彼に歌って欲しいと告げた曲名は、日本が誇る超有名グループの冬歌(ふゆうた)だった。日本語バージョンと英語バージョンがあるのだが、今回彼女がリクエストしたのは英語の方である。不意打ちのリクエストに目を丸くしていたSetsunaだが、メンバー達に背中を押され、やがて少女へニコリと微笑みかけた。
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