私の王様
そうして、料亭の個室に戻り、お互いの付添い人のいる前で私が彼に何を言えるはずもなく。

ってことはやっぱり。

「賭けは、始まっちゃってるの‥‥?」

冗談、であって欲しかった。
好きな男を惚れさせろ、って言ってた。

無理に、決まってるのに。
和泉くんは、私なんか見ていない。

数年前のあの日から――‥‥

なのに。


「今さら、どうしろって言うのよ‥‥」


絵里ちゃんに来るはずだった縁談を無理やり私に持ってきてもらった。
そうして、ただこのままあの東大寺斎と結婚するんだと思ってた。

彼は一体、何を考えているんだろう?

私が、和泉くん以外の人を好きになるとは思えない。
もちろん、私ががんばってみたところで、和泉くんが私なんかのことを好きになってくれるはずがないことも、それと同じくらいわかってる。

そうして、彼の持ちかけた賭けに困惑する一方で、密かに安堵している自分もいたのだ。


だって、あと二ヶ月。
あと二ヶ月の間は、和泉くんを好きなことが許される。


叶わない想いでも。
彼の、あの眩しい笑顔に見惚れることを許されるんだ。


彼の意図はわからないけれど。



「‥‥ごめんなさい‥‥」


好きでいてはいけない人を想うことへの懺悔か、
夫になるはずの人への懺悔か。


わからないまま呟いて、私は静かに瞼を閉じた。
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